お侍様 小劇場 extra
〜寵猫抄より

   “夏の朝”
 


朝のうちは やや曇っていたものが、
昼に近づくにつれ、それも晴れてゆき。
となると、どんどんと気温も上がってしまい、
“早くも30度以上となっております”と、
ニュースショーの気象予報士のお兄さんが告げている。
東京では3日連続の熱帯夜。
まあ梅雨明けしていませんのにねと
女性アナウンサーが案じるように眉を下げ、
晩の間の熱中症に注意しましょうとの呼びかけが続き、

 「〜〜〜〜っ、」
 「久蔵、いい加減に離してよぉ。」
 「にゃうまうっ。」

きれいな足首覗かせて、
わざとにちょっぴり丈の短めな、
ラフなイージーパンツとかいうの、
室内着として履いている七郎次おっ母様のその裾辺りへ、
小さなキャラメル色の毛玉が食いついておいでで。
いや、本当に牙を立ててる訳じゃあない。
後足で立つ格好になり、
両前足の先、小さな爪でもって
おズボンの裾へと掴まっているというところか。
あまりに小さい身なものだから、
引き留めてる風には到底見えぬが、
これでもしっかりとシチ母さんの行動への牽制中。
七郎次の側にすれば、
本来の力を出せばなんてことない負荷だけど。
不用意に歩きだして
蹴り出すことにでもなったら可哀想という
注意喚起と思慮が働いてのこと、
結果として、立派な足止めを果たしている仔猫さんであり。
もうもうどうして?という
麗しの敏腕秘書殿からの戸惑いは、
もう一人の仔猫さんへも向けられていて。

 「クロちゃんも、
  いつの間にスリッパに乗っかったかな。」

 「にゃう?」

え?何のお話?と 白々しくも途惚けているよに見えるのは、
きっちり行動を封じられている側の
勝手な僻目(ひがめ)というやつなのだろか。

 「みゃあ、にゃう。」
 「みぃみぃ。」

 「ああもう、
  ちょっとお隣りさんへ
  回覧板を持ってくだけだろう。」

小さな小さな仔猫2匹がかりでの、
行っちゃあダメよという働きかけは、

 “とんだ“影縫い”の術だの。”

リビングへやって来たお髭の御主、
昨夜まで作家せんせえだった勘兵衛に、
何ともこらえようのない苦笑を誘い、

 「回覧板なら持って行ったぞ。」
 「ありゃ。」

持って出るつもりが、スマホをリビングに忘れたと、
それを取りに一旦戻ったら
仔猫さんたちに見つかった七郎次としては。
自分のお仕事の範疇を
勘兵衛へ手伝わせてしまったような気がしたか、

 「すみません、
  お起きになられたばかりでしょうに。」

すっかりと恐縮そうな様子になったものの、

 「なに、
  そろそろ気温も結構上がって来ておったしな。」

なのでと、仔猫さんたちが頑張っているのだろうよと、
暗にそうとも言いたいらしい御主様。
彫の深い印象的な目許を細め、くくっと笑いつつ
どこか楽しげな口調でそんな言いようをするものだから。
途端に七郎次が、

 「いやあの…。//////」

水色の玻璃珠のような双眸を泳がせ、
含羞みの様子を見せてから、

 「やっぱり、そうでしょか?」

思い当たらぬでもなかったと零す。
何しろ、こちらの仔猫さんたちは
ただの無邪気なにゃんこたちではない。
クロちゃんの方は そうかも知れぬが、
キャラメルいろの毛並みも柔らかそうな、
ちょっぴりお耳の大きいメインクーンの久蔵ちゃんは、

 「みゅうにぃ。」

おっ母様の足元に、
ぎゅうひ細工みたいに ふかふかやわやわの
小さなお手々でしがみついている
5歳くらいの幼子でもあるものだから。
足元にぎゅうという しゃにむなとっつきようも、
何かしら思惑あっての
“行っちゃやーよ”という
甘え混じりなちょっかいかけとしか思えなくて。
だから余計に 振り払うのも気が引けて。
今だって、こちらのお膝に両腕がかりでしがみつき、
真顔のまんま、潤みの強い真っ赤なお眸々で真っ直ぐに、
見上げて来られたりしちゃあ、もうもうもう

 「も〜〜〜〜〜っ。////////」

この子ったらもう、
何て魅力的なのぉ〜vvと。
仙女みたいな風貌で、筋もんの恐持てさえ逆にビビらす、
天下一の肝っ玉秘書殿のはずが、
見るからにデレて、骨抜きもいいところだったりし。


 ああ、いよいよ夏が始まったねぇと、
 こちらのお宅でも実感しきりな朝だったのでございます。





  〜Fine〜  14.07.15.


  *いやはや、
   台風一過のそのまま、
   夏へなだれ込まんという様相ですね。
   こっちでも毎日暑い暑い。
   特に熱帯夜はキツイです。
   夜くらいしか落ち着いて書けないのにぃ。

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